第26章 居なくなっちまうんじゃねえの?
他人が、自分と同じベットに入る。今までの俺なら、落ち着かなくて仕方がなかったはずなのに。どういう事だろう。この安心感。
たまらずエリを腕の中に閉じ込めた。
『ど、どうしたの?』
「んー、いや。こうやって抱き締めてみたりって、情事の後の定番かなあと」
『定番か…。じゃあベタシリーズで、ピロートークでもしてみる?』
エリは腕の中から、上目遣いでこちらを見つめた。本当に楽しそうな笑顔が可愛くて、心臓がドクっと鳴るのが分かった。
彼女にそれが伝わっていないか心配になる。もし聞こえていたなら、こんなに恥ずかしい事はない。
だから、誤魔化すように話を止めない。
「で、出来ればピロートークは遠慮したいなあ。良くなかった、とか言われちゃ お兄さん泣いちゃう」
『え?まさか。結構なお点前でしたよ?』ふふ
あぁ。もう、どうしてもこんなにも可愛いと、愛おしいと感じるのだろうか。
つい最近まで、男だと思っていた相手にこんな感情を抱くなど。異常としか思えない。
……もし、抱かれたい男No.1の八乙女ならば、こういう時でも さらりと殺し文句を口にするのだろうか。
可愛い、とか。好きだ、とか。
だが俺には、そういう言葉を素直に伝えられるような甲斐性はないらしい。
でも、ほんの少しでもいい。少しでいいから、今のこの気持ちが彼女に伝わればいいのに…
「…それまで何とも思ってなかった相手でも、セックスしたら情が湧くって よく言うよな」
(我ながら、なんつー回りくどい言い方だよ…)
『え?あぁ、まあ…。聞く、かな…』
エリは、瞼が重そうだ。
きっと今日も 朝から忙しくしていたのだろう。
それに、必死になって陸を助けてくれ…。いや、違うな。
必死になって、IDOLiSH7を助けてくれたのだ。
明日もある事だし 早く寝かせてやろうと思い、そっと髪を優しく撫でてみた。