第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
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『ごめん』
「…は。否定もしないのかよ。ひでー女」
『そう、私は…最低だと自分でも思う。だからね、二階堂さん。私の事、嫌いなままで良い』
大和の首の後ろに手を回して引き寄せると、こつん と額同士が軽く触れ合う。少し開いていた距離が、再びゼロになった。
『最低な私に、今の二階堂さんの気持ち 全部ぶつけて。
酷くしてもいい。痛くしてもいい。傷を付けたっていいから。
嫌いな相手になら、全力で出来るでしょ?そしたら、今の貴方の中にあるぐちゃぐちゃな気持ち…少しは軽くなるかも。スッキリ出来るかも』
「……取り引きか」
『…いくらでも、私をオモチャにすればいい。
きっと、貴方と似たところのある私になら 少しは気持ちも分かってあげられる。なんなら、私を使ってストレスを発散してしまえばいい。
その代わり、私に頂戴。千葉志津雄の、コネクション』
「はぁ……。ひどい上に、身勝手な女だよ、あんたは」
大和は、イエスともノーとも言わなかった。答える代わりに、行動で示す。
私の羽織るバスローブの紐を、しゅるりと解く。そして、黙って口付けた。
それは、甘く。ひどく官能的で、予想していたキスとは大きく違った。
彼の舌先が、ゆっくりとした動きで私の唇をなぞる。薄く唇を開くと、遠慮がちに中へと侵入してきた。さきほどの強引な口付けとは打って変わって、情緒的だ。
『ん…、 ぅ…っ ふ』
「はっ…、なんで、だろうな。
あんたなんか…俺が一番嫌いなはずの目付きで見てくるくせに。ひどくて自分勝手なくせに。
なのに なんでか、春人とは違って、あんたのこと 嫌いになれねぇんだわ」
そう言って大和は、困ったように笑ってみせた。