第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
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腕をぐんっと強く上に引かれる。強引に立ち姿勢にされ、驚きの声を上げる。しかし、声を上げるよりも前に、唇が柔らかいもので塞がれた。
突然のことに目を見開いたのと同時、口の中に液体が溢れかえる。強烈な匂いと味に、すぐにそれの正体に気付く。
ウィスキーだ。
『ふっ……! んっ、うぅっ』
反射的に口を閉じようとするも、大和の舌が邪魔をする。それどころか、どんどんと酒はこちら側へ注ぎ込まれる。
溢れ返ってしまう前に、なんとかそれを飲み下す。ごくっという音と共に、酒が喉を焼く。
それを見た大和は、ようやく私の唇を解放した。
「ん、ナイスな飲みっぷりで」
『げほっ…、ごほ!
こ、こんな事されたら飲むしかない。っていうか、いきなり何するの』
「嫌だったのか?」
『……』
「嫌なわけ…ないよな」
『…ふ。何それ。二階堂さんって、そんな自信家だったんだ?』
「そりゃ自信はあるぜ?だってあんたは、俺のご機嫌損ねる訳にはいかねえもんなぁ?」
大和は、私をベットへと突き飛ばした。そのまま動けずにいると、ぎしりと音を立てて彼が覆い被さる。
「コネが、欲しいんだろ。千葉志津雄の」
『…知ってたの?私が、何を求めているのか』
「嫌でも分かる。あんたの目を見ればな。
そういう目付きした奴は嫌ってほど見て来たんだよ。こっちはな。
教えてやる。その目はな…
俺じゃなく、俺の後ろにいる親父を見てる目だ」
再び、唇が合わさる。荒々しくて、大和気持ちが流れ込んでくるようだ。悲しくて、寂しくて、とてつもなく大きな怒り。
私に、傷付く資格などない。
だって私は、彼の言う通りの人間なのだから。
そう。彼の父親が千葉志津雄でなければ、私は今 ここにいない。
そして…たとえ大和が傷付いたとしても、後ろに引くつもりはないのだから。