第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
スーツは、鎧。
鎧を脱げば、私はエリに戻りやすい気がする。
逆に言えば、スーツを着たまま敬語は外しにくい。
女の格好で、春人にはなれない。
「いやでも、極端だな。やっぱり」
『そうかな。分かりやすいスイッチだと思うけど』
「ふーん。そんなもんかね。
ってか、女のままで働いちゃ駄目なわけ?」
『…色々あるの。それに、男でいる方が働く上では便利な事多いし』
「あ、そう。まぁ働き者のあんたらしいな。
でさ、この複雑な事情知ってる奴は、他に誰がいんの?」
私は、手櫛で乱れた髪を直しながら考える。頭の中で、私の秘密を知る人を指折り数えてみた。
『Lio の事まで知ってるのは、以前勤めてた事務所の社長と、八乙女社長に姉鷺さんでしょ…あとは タマちゃんと、バーのマスターと、ダンサーのMAKAさん』
「なんともバラエティ豊かな面子だこと。っつーかMAKAと知り合いかよ。それも相当ヤバイな」
『女だって知ってるのは、Re:valeの2人かな。百と千』
「げ」
『げ?』
「いや…千さんも、知ってるんだなーって」
誤魔化している感のある大和。今の “ げ ” は、ついつい思わず出てしまった。という感じだ。それも、明らかに千の名前に反応した。
『それがさ、凄いの。
百の方は、本当の性別なんて全然気付いてなかったんだけど。千は、私を一目見た時から気付いてたんだって。
あの人、ほんと何者…なんていうか、人智を超えた何かを感じるよね』
「そうなんだよ。あんたも気を付けろ?あの人は根っからのペテン師だからな。甘い言葉を吐きまくって人の心に漬け込んでくる。
それで油断したところを、バクっ!!」
『ひや!』びく
「って、食っちまうような奴だ。本物の悪党だから、絶対に気を許すなよ。俺は忠告したからな」
『…貴方、一体 千に何されたの…』