第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
さて、これからどうしたものか。
これでは、本当にただ美味しい食事をしただけで終わってしまう。
すっかり空になった、互いのグラスを見て気持ちが焦る。せめて もう少し話をして、親密になりたいところ…
2人の距離を縮めるには、まだまだ話し足りない。
「お待たせー」
『いえ』
お手洗いに立っていた大和が、戻ってきた。彼は再度 着席はせず、私が立ち上がるのを待った。
仕方なく腰を上げる。
んじゃ、行きますか。と、歩き出す彼に並んで歩く。
すると大和は、レジカウンタをスルーした。
『お手洗いに行った際に、支払いを済ましてくれたのですか?』
「まあな」
『良い値段したのでは?私も出すつもりをしていたんですけどね』
「あー、いいっていいって。今日の礼だって最初に言ったろ。
それに…こういう場所では男を立てろよな。
それともなに?あんたの目には、俺が 女 と割り勘するような奴に映ってたわけ?」
『そうですね…実は少しだけ。だって、そういう事を気にするタイプには見え……』
足が凍り付き 動けなくなった私を置き去りに、大和は振り返る事なく歩みを進める。
私達の距離が、3メートル。5メートルと離れたくらいで、くるりと身を翻した。
「おー、見事に固まってら。あれ?意外と顔に出やすいタイプ?」
『…二階堂さんが、急に、トチ狂ったのかと心配になっただけですよ』
「ひでぇな!その言い方!」
『………』
保たれた距離が、コツコツという靴音と共に縮まっていく。そして目の前で立ち止まり、上背を屈めて告げる。
フリーズしたままの私の耳元に、温かな息がかかった。
「俺は…」
彼は、何を知ってる?
「俺は、あんたの秘密を知ってる」
ならば、どこまで知ってる?
「性別の事だけじゃ、ねえからな」
それだけ言うと、すっと姿勢を戻す。
それから、おもむろに胸ポケットから何かを取り出した。あれは…
このホテルの、カード型 ルームキーだ。
それを自らの口元に当てがい、にやりと笑う。
「着いてくるかは、お前さんの自由だけど。俺はもっと、あんたと話がしたいなぁ?」
どうやら話し足りないと思っていたのは、私だけではなかったらしい。