第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
『私も聞いていいですか?』
「ん?なんでもうデザートが出て来たのかって?」
『今運ばれてきたこれは デザートではなくソルベといって、肉料理の前に出る箸休め的なものです。
いやそうではなく…』
「冗談だっての。どうぞ?」
『私の事が嫌いなのに、どうして食事に誘ってくれたのですか』
「おいおい。だからべつに嫌いなわけじゃ…って、もうそれはいいか」
運ばれて来たばかりの肉料理に、ナイフを入れながら笑う大和。そこへ、早くも赤ワインも到着した。
どうやら白を注文した際に、赤ワインも同時に頼んでいたのだろう。
異様に大きなグラスに、うやうやしくボーイが赤を注ぐ。
まだ注いでいる最中だったが、大和は口を開いた。
「興味があったから。
“ 春人 ” としての あんたに」
『それは…どうも』
まるで私に、春人以外の面があるのを知っているような口ぶりだ。
もしここで それを追求すれば、こちらが追い詰められてしまいそうで。変に墓穴を掘るくらいならば、流してしまった方が良い。
「つまんねぇな。乗ってくるかと期待した」
『私のことを買い被りすぎですよ』
小さく切った肉片を口へ運ぶ。マデラ酒のソースがこっくり甘くて後を引く美味しさだ。その口を赤ワインで洗えば、次の一口がさらに美味である。
「言っとくけど、嘘じゃねえからな?興味…っていうか、聞いてみたいと思った事が いくつかあったんだよ」
『聞いてみたい事?』
「あんた、面白い考え方してるしな。話聞かせて貰おうと思って」
『和泉さんと言い 貴方と言い…。私、そんなに愉快な話は聞かせてあげられませんよ?』
「いいんだって べつに。愉快かどうかは、あんたじゃなくて 聞く側の俺が決めるから」
『なるほど』