第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
「あんた、たまにそういう…優しい顔するだろ」
『…そう ですか?』
たとえ先程までは、そういう表情を浮かべていたんだとしても。今はきっと、凍り付いている。
大和が何故、険悪な雰囲気になってしまったのか見当が付かないから。
丁寧に裏ごしされたはずのエンドウ豆が、ざらりと喉に張り付くのを感じた。
「あんたの事は、嫌いではない。
でも正直…そういう顔してるの見たら、腹が立つんだよ」
『…腹が立つ?』
大和が再度口を開こうとした時、魚料理が運ばれて来た。
皮目が香ばしくパリッと焼かれた真鯛。非常に食欲を誘う湯気を立てていたが、すぐにナイフを入れようという気にはなれなかった。
「他にも、自分とこのアイドルほったらかして 陸を助けようと動くとことか。
TRIGGERと信頼だの信用だの、馴れ合ってるとことか。
目の当たりにしたら…嫌な気分になっちまう」
『……』
「勝手に思ってたんだよ。
あんたは、俺と同類だってな。
冷徹で、他人なんか信じない。利用できるものは利用する。そんな嫌な人間だって」
悲しそうに目を伏せた大和。
まさか、彼も私と同じ事を思っていたとは。それは明らかに同族嫌悪。
私も、大和とはどこか通じるものがあると感じていた。しかし私は、大和と自分に違った点があったとしても、腹が立ったりはしない。
『同族嫌悪を抱いたかと思えば、今度は同類じゃなかったから腹立たしい。ですか。
よく分かりませんね。貴方は、私がどうあれば満足だったんですか』
「…そんなの、俺の方が知りたいぐらいだ。
初めてなんだよ。自分の気持ちが分からない、なんて。自分を客観視するのは得意だと思ってたんだけどな。
なんで、あんたを見てると…こんなにもイライラするのか、分からない」
自分の気持ちが分からない。こんな気持ちは初めて、か。
私も、初めてかもしれない。
相手が、どんな私を望んでいるのか 読めないなんて。
とりあえず “ 大和が望む私 ” が見えるようになるまでは、春人の面を被り続けるしか選択肢はない。