第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
乾杯をして、ナフキンを膝の上に置く。すると少ししてから、コース料理がスタートした。
シェフからのご挨拶という意味を持つ、一番最初の一皿だ。
「お通しがシュークリームか。フランス料理って変わってるよな」
『アミューズです。プチシューです』
いただきます をしてから、シューを口へ運ぶ。軽く歯を入れると、中からは濃厚なウニクリームが飛び出してくる。
『お料理、注文してくれていたんですね。ありがとうございます』
「まぁ、お礼って名目だからな。格好だけはと思って。
あ、嫌いな物なかった?」
『特には。
お礼がフレンチだなんて、少し気張り過ぎでは?』
「はは。実は俺も、居酒屋の方が良かったんだけど…
“ 綺麗なお兄さん ” は、お洒落なフランス料理がお好みかと思って?」
私の事を 綺麗なお兄さんと揶揄する彼の目は、さも楽しそうに歪んでいた。
プチシューをシードルで喉奥へ流し込んでから、私は顔を上げた。
『二階堂さん。あのですね』
「ん?白ワインにするか?」
『いえ、そうではなく。
ずっと気になっていたんですが…貴方、どうして私の事を嫌いなんです?』
「ぶっ…、おいおい。なにそれ、藪から棒だな!ちょっと吹いちゃったじゃねえか…」
『人の心の機微には、敏感な方なんですが。二階堂さんは、最初から私に対して嫌悪感を持っていましたよね』
「………」
大和は、目を逸らす事なくこちらを見ている。どう答えれば逃げ果せるか、必死になって模索しているに違いない。
と、このタイミングでボーイが次の料理を運んで来る。
無言で見つめ合う、いや。睨み合う私達を気にも止めずに 静かにスープ皿だけを置いて行った。