第25章 その綺麗な顔が、どんなふうに歪むのか
相変わらず、ここは華やかだ。
大和に指定された場所。高級ホテルの最上階に位置するリストランテ。
私にとっては、まだ記憶に新しい。龍之介を陥れた女性と共に、ここで食事をしたのだ。
奇しくも予約された席は、その時と同じであった。
約束の時間までは、あと15分ほど。私は下座に着き、タイを締め直した。
「はーい、えりりん!待った?」
『………』
気合いを入れ直した直後だというのに、その心さえも折れそうになる 大和の第一声。
それでも、相手の到着に合わせて 一応は立ち上がろうとする。しかし彼はそれを手で制した。
「いいって。座ったままで」
『…では、お言葉に甘えて。ですが、もし次 私のことをえりりんと呼んだらその時は…
私は、貴方の事を “ 撫子 ” と呼びますよ』
「…はは、大和撫子から取ったのか?分かりにくいな。
でも、やっぱお前さん面白いわ」
大和は大袈裟に笑うと、ジャケットのボタンを外して着席した。
「ってか、あんたガチスーツで来たのかよ。しんどくねえの?」
『全く。落ち着きますよ』
「変わってんなぁ」
スーツは、私にとっては戦闘服。これに身を包んでいれば気が引き締まるし、エリではなく春人になれる。分かりやすいスイッチなのだ。
「赤がいい?それか白?泡もあるけど」
『二階堂さんの お好きなものを』
「ああそう。んじゃ俺が決めちゃおうかな、と。
やっぱ乾杯はシャンパンにしときますか」
大和は、クーラーからフルボトルのシャンパンを取り出す。氷がガシャリと音を立てた。
真っ白なクロスでボトルを拭いてから、細長いグラスに液体を注ぐ。
「んで、何に乾杯する?」
『そうですね…。ここはベタに、私達の初めての会食記念』
「あ、そういえば俺、あんたにお礼言う為に誘ったんだったな。すっかり忘れてたわ。
っつーことで、今日はありがとうございました。はいカンパーイ」
『……乾杯』
不愉快極まりない乾杯にも関わらず、口に含んだ液体は嫌味な程爽やかで美味しかった。