第23章 素敵な衣装ですね
あ。まずいな。
と、ようやく気が付いた。
彼女は年頃の女の子だ。そして私は今、男なわけで。そんな私が気安く彼女に触れるべきではなかった。
それに気が付いてすぐに、撫でていた手を引っ込める。
その時、見計らったかのようなタイミングで、エレベーターの扉が開いた。地下駐車場に到着したのだ。
私は楽屋がある階層のボタンを押す。それから、自分だけ素早く降りる。
『では、行ってきます』
向かうべき階を指定されていたエレベーターは、すぐ様 その扉を閉め。彼女だけを乗せたまま、再度上へと向かったのだった。
紡は私に何か言いかけていたが、それは間に合わなかった。
“ よろしくお願いします ” か、もしくは “ 行ってらっしゃい ” だったのか。言葉を残す前に、再びIDOLiSH7の楽屋へと帰ったのだった。
その言葉が何だったかは分からないが、別に私などに恩を感じる必要はない。
私の願いはただ1つ。
彼女が、これ以上 責任を感じなければいい。
それで、IDOLiSH7とマネージャーが “ そういえば、あの時あんな事があったよなぁ ” と、今回のトラブルをいつか笑い話に出来る日が来たらいい。
たったそれだけなのだから。それが叶うならば、誰からの感謝も欲しくはない。
とにかく、それを現実のものとする為には、私の努力次第。
ここが私の頑張りどころなのだろう。
『 “ 絶対 ” 大丈夫』
人には言わないが、あえて自分には、この言葉を使おう。
絶対。必ず。自分を鼓舞するのには、良い言葉である。
私はバイクの停めてある場所へと向かいながら、携帯電話を手に取る。
そして、登録したばかりの番号を表示して 発信ボタンを押した。