第23章 素敵な衣装ですね
【side 七瀬陸】
善処しますと言い残し、TRIGGERのプロデューサーはここを出た。マネージャーも、彼の後を追う。
おそらく、リハの順番入れ替えの申し出をする為、スタジオへと出向くのだろう。
それを済ませた後も、彼が俺達の為にあちこち走り回る姿は、容易に想像出来た。
室内は、意外と重苦しい空気にはならなかった。そうならないように、TRIGGERが気を使って話をしてくれたからだ。
そんな中、大和が言った。
「それにしても、おたくのプロデューサーは色々スゲぇな。
善処する…ね。“ 絶対 ” とかって言葉は口にしないってか。嫌味なくらいカッコイイわ。
俺ならビビっちゃって、絶対大丈夫だーとか無責任な言葉吐いちゃいそう」
大和の言葉に、楽は薄く笑った。
この2人は歳が近いせいか、打ち解けるのも早かった。こうやってIDOLiSH7とTRIGGERが集まった時は、この2人が会話するシーンをよく目にする気がする。
「確かに凄いといえば凄いけどな。
あいつ、涼しい顔して難しい事考えてる時と、難しい顔してアホな事考えてる時があんだよ」
「あはは。俺達でさえ、未だに驚かされる時があるよね」
「プロデューサーが、絶対 とか 必ず って言葉を嫌う気があるのは確かだけれど。
その言葉を口にしない理由が、きちんとあるのかもしれないよ」
「 “ 私がバイクに乗ってる途中、心臓発作にならないとも限らないでしょう ” とか思ってそう!春人くん」
「龍!それだ!めちゃくちゃ言いそう!」
オレ達に不安を与えまいと、あえて明るく話してくれているのだろうか。
「心臓発作ぁ!?あっはは!あの人、真顔でそんな事考えてたのかよ!」そりゃ衣装どころじゃねえわ!
「いや、普通にあり得るよ。あの人なら」
笑い声をあげる三月の隣で、目を細める天。
彼の…兄の、こんな穏やかな顔を見たのは、どれくらいぶりだろうか。
ステージ上での顔でも、オレに向ける顔とも違う。
「…プロデューサーが自分で言わないのなら、ボク達が代わりに言ってあげる。
あの人に任せておけば “ 絶対 ” 大丈夫だから」
自分にも、他人にも厳しい兄。彼に、こんな表情をさせ、こんな言葉を言わせてしまうなんて。
春人とは、一体どういう人間なのだろう…。