第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
「…………」
楽だけは、私の歌に対して反応を何も示さない。
「楽?どうかした?」
龍之介に名前を呼ばれ、やっと彼は我に返る。
「…どこかで、聴いたような気が…。俺、前にもあんたの歌を聴いたか?」
『………』
「寝ぼけてるの?つい数時間前に社長室で聴いたでしょ」
「いや、そんな直近じゃねぇんだよ…」
私には、楽のその直感に思い当たる節がある。が、その違和感の正体に彼が気付くと やっかいだ。
空気を変えるべく、再びピアノの前に座る。
『…そろそろ本当にレッスンを始めます』
無理矢理 彼らの会話を切り上げて、私は鍵盤を指で押し込む。
ポンポンポン、と ピアノの音色が部屋に響く。
『…さきほど皆さんの歌を少し聞かせてもらったので、既にこの曲をある程度理解してくれているのは分かりました。
ですが、一応作曲者として説明させてもらいます。
この曲のコンセプトは…
1人の女性を奪い合う、3人の男の物語です』
奇しくも運命のいたずらで、同じ女性に恋をしてしまった3人。
彼らが1人の女性を、あの手この手で奪い合う過程を描いている。
俺様な楽。小悪魔な天。ワイルドな龍之介。
魅力的な彼らに迫られる女性を、この歌を聞いてくれる女性に重ねた曲だ。
『今のうちに、解釈の違いや 手直ししたいような気になる部分がないか教えて下さい』
念の為に確認したが、結局大きな変更点はない。
俺様、小悪魔、ワイルド。
これらが本当のTRIGGERの姿なのかは置いておいて…
とりあえずは このまま手直し無しで、この曲を練習する事に決まったのだった。