第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
「それにしても、かなり攻めてるよね。ブラックオアホワイト出場曲のタイトルが、Black&Whiteって…」
「ボクも思うよ。まるで喧嘩売ってるみたいだ」
「…喧嘩か、まぁ俺達らしくて良いと思うけどな」
『これくらいパンチがあった方が、審査員や観客の心に残るでしょう』
私はジャケットの第2ボタンを外し、ピアノの演奏席に腰を下ろす。
『では、早速 歌のレッスンを始めましょう』
彼らは既に楽譜を各自持っていた。私が眠りこけている間に、コピーをして 各自のパートを練習してくれていたのだろう。
「その前に。お前の生声でこの曲を聴きたい。CDじゃなくてな」
『必要ありません。私が用意したこのCD音源こそが、この曲の理想の仕上がりだからです』
彼の要求から逃げるように、視線を鍵盤に落とす。
「…それ、本気で言ってる?
ボクは到底 納得出来ない。キミも音楽の世界にいるのなら、生声にどれだけ力があるか知ってるはずだ。CD音源が完璧だと言うなら、ボク達が存在する理由すらない」
「て、天…」
キツイ言い方をする天の名を、なだめるように龍之介が呼んだ。
生声の力、か…。そんなもの、私も重々理解してる。でも…
『…きっと、ガッカリしますよ』
一言だけ前置きをしてから、私はデッキのスイッチを入れ、目をつぶって音楽のスタートを待った。
私が必死になって歌い上げるのを、3人は耳と目でしっかりと受け止めている。
嫌な汗が、背中を伝う。
せめて…音だけは外さないように、的確に歌い上げる。
『…分かりましたか?CDの方を参考にして下さい』
「やっぱり、あのCDは既に編集してあるんだね」
「上手い…とても上手いよ。歌唱技術がハンパなく詰まってる感じ。でも…」
龍之介は、それ以上は口にしなかった。
分かっている。彼が本当は言いたい言葉の続き。
“ 弱い ” のだ。私の歌は。
ガツンと欲しいところで、来ない。
もっと聴きたいところで、伸びない。
だから、編集に頼るしかないのだ。