第22章 私にも、出来るでしょうか
マネージャーは、その間にも懸命にメモを取っている。私は、出来る限り頭に直接叩き込んだ。
『それだけ用意周到に準備していても、やはり失敗するときは失敗します。
あれ?この人の名前なんだっけ。あれ?前にこの人とやった仕事はどんなだったか。人間ですから、忘れてしまう事だって絶対にある。
そういう時は、焦らず顔に出さず…』
「笑顔、ですか」
『その通りです。あなたはアイドルで、綺麗な顔をしているのですから、相手を魅了するくらいの最高の笑顔で誤魔化してしまえば良いのです』
「き、…っ、べつに、そんなに綺麗では…!」
綺麗とか、カッコ良いとか。そんな言葉はそれなりに言われ慣れているはずなのに。
なぜか、同性の彼から言われた今この瞬間。情け無いくらいに心音が跳ね上がった。
それに、綺麗というならば…私よりも、そちらの方が…
「でもっ、出来るだけ不測の事態に陥らないよう、マネージャーとして、私が頑張りますねっ」
『そうですね、事前準備は やはり大切です』
マネージャーの言葉で我に帰った。今は、余計な他ごとを考えている場合ではない。一旦、この謎の動悸は忘れる事にする。
『和泉さん』
「は、はい」
『例えばここに、大手放送局 NHNの社長が立っています。そして、あなたにこう言ってきます。
“ もし今ここで、3回まわってワンと言えば…IDOLiSH7にゴールデン冠をやろう ”
さぁ、あなたならどうしますか。その言葉に従いますか?』
「答えは決まっていますね。ワンでもニャーでも、何周だって回って鳴いてやりますよ」
『………』ニャー…
それくらいの事でレギュラーがもらえるなら、私でよければいくらでもやる。
しかし、それは春人の望む答えでは なかったようだ。
『えっと、それじゃ駄目です。私なんかが偉そうに言うのも おかしな話ですが…。
これだけは、断言出来ます。それは不正解です』
「何故ですか?私が少し嫌な思いをするだけで、グループが躍進出来るチャンスですよ」