第22章 私にも、出来るでしょうか
『…と、いうわけです』
春人は、すっかりと綺麗になった顔でそう言った。
“ 何が!? ” と返してやりたいところだったが。今の流れを見ていて、なんとなくの事情は察した。
「つまり…あなたは、あの女性の好感度を上げる為に、わざわざ顔を汚して待っていたと」
『その通りです。
ときに和泉さん。あなた、可愛い人は好きですか?』
「は!?べっ、べつに私は、可愛いもの好きなどではないですよ!?私が好きなのは、スラっと長いシャープペンシルとか、よく切れる鋭利なハサミとか…っ」
『?? そうですか。
でもね、あの方は好きなんですよ。
“ 可愛い男性 ” が』
たしかに、そうなのだろう。彼女は、演技した春人や天を特に気に入っている様子だった。
楽や龍のような男らしいタイプよりも、彼女にとっては可愛い男性の方が 魅力的に映るのだろう。
まぁなんにせよ、口元をカレーで汚している人は たしかに可愛い。
思わずきゅんとして、ハンカチで拭ってやりたくなる気持ちも分かる。
「うーん…、えっと…たしか…っ」
隣で、マネージャーが うんうんと唸っている。どうやら、何かを懸命に思い出そうとしているようだ。
とりあえず 彼女には触れずに、私は春人との会話を続ける。
「それで、あなたが そうまでして取り入りたいと思っている、さきほどの女性は誰なんです?」
『それは』
「あっ!!思い出しました!!」
考え込んでいた彼女が、閃いたらしい。
「さっきの方!いま話題の、構成作家さんです!」
『ご明察です』
春人は、ふわりと優しく微笑んだ。