第21章 キミがいてくれて、良かった
『…ありがとう?ですか』
責められても仕方がないと思っていたところ、まさか礼を言われるとは思ってもみなかった。
私は目を大きくして、彼の横顔を見つめる。
「少しだけ、嬉しかったんだよ。
キミが、ボクの背中を押してくれた事。
誰もが行くなと止めるところ、キミだけはボクを信じてステージに送り出してくれた。
TRIGGERのセンターは、ボクにしか務まらないと認めてくれた。
アイドルにとって、こんなにも嬉しい事はない。
自分の存在意義を、認めてくれたのと同義だからね。
だから、ありがとう。アンコールをあそこまで全う出来たのは、キミのおかげかもしれない。
キミがいてくれて、良かった」
天がこちらを向いたので、私と彼の視線が交錯する。
「ありがとう」
人気の無くなった、待合室。今は入院患者や見舞客の為だけに開かれているのだろう。
先ほどよりも、少しだけ落とされた照明。そんな仄暗いこの場所で、私と彼は話をしている。
そんな、公の場で私は今…泣きそうになっていた。
まさかこんな場所で、天からこんなにも嬉しい言葉を貰えるなどと、思ってもみなかったのだ。
『っ、…』
私は、間違っていなかったのだ。天を、強引にでもステージに立たせた事。他人から見てみれば、キツイ言葉もたくさん吐いた。
でも、彼には、天にはちゃんと伝わっていた。
私の 信じる気持ちを、彼はしっかりと勇気に変えて ステージに立ってくれたのだ。
この仕事をしていて、こんなにも嬉しい事は他にない。