第21章 キミがいてくれて、良かった
私は、天の横に腰掛けた。
帰る前にどうしても、彼に言っておかなければならない事がある。
『私も、貴方に言いたい事があるんですが…少しだけ聞いてもらってもいいですか』
「?」
まだ返事をしないうちに、私は勝手に話始める。
『私は少し、怒っています』
「怪我をしたから?まぁ、たしかにそれはアイドルとしてボクが未熟だったと思」
『違います』
全く見当はずれな答えを返した天に、さらに怒りが上乗せされる。
私は天の頬を、むぎゅっとつねる。
「!?」
『私が怒っているのは、貴方が怪我を負ったからではありません。
怪我をした事を、隠していた事に怒っているんですよ』
「い、いはいよ!アイホルのはおを ほんなふーにあつかあないへくへる?!」
(い、痛いよ!アイドルの顔を そんなふうに 扱わないでくれる?!)
仕方がないので、すぐに頬は解放する。
『勿論、怪我をしないのがベストではありますが。もし怪我をしたのならすぐに話して下さい。
そうしてくれれば、それなりの対処が出来たんですよ』
迅速に、適切な処置が出来ていれば。もしかするともっと軽度な捻挫で済んだかもしれない。
なにより、痛い思いをした時間を、もっと少なくしてやれたかもしれない。
『いえ…やっぱり、私が悪かったんでしょう。
私がすぐに気付けなかった事に対する、八つ当たりですね。これは』
また謝ってしまいそうになった。しかし私の謝罪を、彼は望んでいない。これでは話が堂々巡りになってしまうな と思ったら、なんだか気が抜けてしまった。
すると、無意識に口元が緩んでしまう。
「八つ当たりなんかじゃ、ないよ。たしかに、すぐに話さなかった責任はボクにあるのかもしれない。
…ごめ」
『謝らないで下さい。今回の事は、2人とも謝らない。これで手打ちにしましょう。おあいこ、というやつです』
「……そう。じゃあ言い方を変えようか。
ありがとう」