第21章 キミがいてくれて、良かった
私は潤んだ瞳を隠す為、すぐに俯いた。そして震える声をなんとか必死に押さえつけて、照れ隠しの言葉を口にする。
『私がいて、良かった…なんて。そんな、甘い台詞は…貴方の恋人にでも言ってあげたら いいじゃないですか』
我ながら、誤魔化し方がなんて下手なのだろう。いつもなら もう少し上手くやる自信があるのだが。今はどうにも、そんな余裕も無いらしい。
「ボクに恋人がいると思ってるの?」
隣で、彼が薄い笑みを浮かべている。
『え、いえ…。まぁ 今はいなくとも、いずれ貴方にもそういう方が』
「いるよ。恋人」
私は、その言葉に ばっ!っと頭を持ち上げる。あまりの衝撃で、涙も乾いてしまった。
『天、貴方…恋人がいるんですか』
「うん。誰か教えて欲しい?」
『…そうですね。今後の為にも、ぜひ紹介をして欲しいところではありま』
「ファンだよ」
……それはなんとも、彼らしい答えではないか。
「ボクの恋人は、ボク達のファンだ」
その甘い微笑には、私だけでなく。何の変哲もない観葉植物も、簡素な緑の電話ボックスでさえ、酔わせてしまえそう。
殺風景な病院の待合室でさえ、天にかかれば まるで桃源郷に変わるのだ。
『…危うく、ここがピンク色に染まるところでしたよ』桃源郷が見えました
「何の話?」桃源郷?