第21章 キミがいてくれて、良かった
天の怪我は、結論から言えば 中度の捻挫だった。
安静にしていれば、2週間ほどで完治するとのこと。
レントゲンにも、骨に異常は全く見受けられなかった。とりあえずは胸を撫で下ろす。
しかし当面は激しい運動は禁止。ちょうどライブの予定は入っていなかった為、スケジュール管理は容易だろう。
しばらくは、軽い撮影や ラジオなどの仕事に従事してもらう方向で考えた。
「思ったよりも軽症で済んで良かった。2週間、ダンスレッスンが出来ないのは痛いけど。
で? それは、なんのつもり?」
診察室を出るなり、頭を深く下げた私に 天は冷たく言った。
『私は、貴方が怪我をしているのにすぐに気付けませんでした』
「ボクが隠してたからね。逆に言えば、キミにすらバレなかったということは、ファンにも気付かれてないでしょ。それを聞いて安心したよ」
『さらに私は、貴方が怪我をしていると分かった上で ステージに上げました。
貴方個人よりも、TRIGGERを優先し、貴方のファンを優先しました。
もしかすると、天の怪我がもっと酷くなるかもしれないというのに…。
私は、プロデューサー失格です。この度は、本当に申し訳ありま』
言葉の続きを、彼の手の平が遮った。
「謝ったら、怒る」
『…ん、?』
口元を手で覆われていては、謝ろうにも言葉を紡ぐ事が出来ない。
「別にキミの為じゃないけど、一応言っておく。
ボクは、キミに出るなと言われたとしても アンコールの舞台には立っていたよ。確実にね。
なんなら、他のスタッフと違って 出ろって言ってくれたキミには感謝してるくらいだから。
結果、アンコールは大成功でファンも満足してくれた。キミもボクも、何も間違ってなかったんだよ。
だから謝る必要なんてない。どう分かった?」
分かった。と言いたかったが、声が出せなかったので 私は首を縦に2回動かした。