第21章 キミがいてくれて、良かった
「九条さん!まだここにいらしたんですか?」
『!?』
廊下の向こうから聞こえてきたのは、看護師の声。私は即座に立ち上がり、角の向こうへと移動する。
「ずっとここで立ってらしたんですか?お怪我に触りますよ!」
『天…』
彼は、一本の松葉杖をついて その場に立っていた。
私の中に、嫌な予感がザワザワと広がっていく。
まさか…彼は私と支配人の話を聞いていたのか。心臓がどくどくと、嫌な高鳴り方をする。
「すみません。さっきまでは待合で待っていたんですが。今ここにいたのは、そちらのトイレをお借りしていたからです」
天は、私達のすぐ側にあるトイレの青いマークを見て言った。
「TRIGGERの九条天でもやっぱり、トイレするんだ…」
(あ、そうだったんですね!)
「『え?』」
「あっ、いや!ごめんなさい!すみません!何でもないです」
私の聞き間違いでなければ、今この看護師とんでもない事言ったような。いやおそらく…心の声と 口に出した声が、逆になってしまったのだろう。
どちらにしても、とても医療従事者とは思えない発言だった。
「あはは、なんだか夢を壊してしまいましたか?すみません」
「いえ!あ、それより結果が出ましたよ。診察室へどうぞ、先生が説明をさせてもらうので」
私達は、その看護師の後に続いて 診察室へ向かうのであった。
天は、平常運転だ。様子もいつもと全く変わらない。
おそらく天のファンであろう看護師に、しっかりとTRIGGERの天として対応しているし。
私に向ける瞳も、いつも通り。
彼がトイレに行っていたというのは、本当なのだろうか。
確かめたくとも、“ 私達の話を盗み聞きしていましたか? ” などと探れば、逆に怪しまれてしまう。
ここは、しばらく様子見しかないだろう。