第21章 キミがいてくれて、良かった
「こんな大変な時に、いらぬ話をしてしまい申し訳ありませんでした。
こちらは、僅かばかりですが見舞金です」
『そういった物は、受け取れません。お気持ちだけありがたく頂戴しておきます。
わざわざ足を運んで頂き、ありがとうございます。九条にも申し伝えておきます』
「そうですか…。分かりました。では、私はこれで。
九条くん、大事無いと良いですね」
支配人が、椅子から立ち上がる気配がした。そして、プロデューサーに別れを告げると、その場から立ち去ろうとする。
『お待ち下さい』
「…はい?」
『私には、Lio の歌が聴きたいという貴方の 願いを叶えて差し上げる事は出来ません。
しかし、もし支配人が 至高の音楽を求めると仰るのなら…
彼らが、おりますよ』
「TRIGGER ですか」
『はい。もういない人間をあてにするよりも、いま 確実に存在している彼らを どうか 今後とも贔屓にしてやって下さい』
「……それは、営業と捉えるべきですか?」
『…ふふ。どうぞご自由に』
そんなやり取りの後、支配人はこの場から姿を消した。
支配人の靴音が完全に消え去った後、プロデューサーの大きな溜息と。そして どかっと椅子に座る音が聞こえた。
ボクは、この場から動けずにいた。
たった今 耳にしてしまった話が、あまりにも衝撃的過ぎたから。
もしも…、もしもだ。今の話が事実なのだとしたら、ボクは一体 どうするのだろう。
本人に問い詰め、事実を白日の元に晒したいのか?そうなった場合、彼…。いや彼女は、TRIGGERのプロデューサーを続けるだろうか。
色々な考えが頭の中を巡るが、今はゆっくりと考えている時間はない。
ボクは息を吸い込むと 意を決して、プロデューサーが待つ 曲がり角の先を見据えた。
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