第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
「お、おい…こいつ、まだ寝てるぞ」
『………』Zzz
彼がいる場所へと帰ってきたのだが。当の本人はまだ気持ち良さそうに眠ったまま。
「…まぁ3徹だからね。無理もないんじゃない?」
天は呆れながら言った。でも、その表情は少し嬉しそうだ。良い曲に出会えた事が、彼にこの顔をさせているのだろう。
「ちゃんとした所で寝かせてあげようか」
「そうだな。龍運んでやれよ」
「仮眠室のベットにでもね」
別に構わないのだが、運ぶのは絶対に俺の役目なんだな…。いや別に良いんだけど。
俺は彼の首の後ろと、膝の後ろに両腕を差し込み。横抱きにして持ち上げる。
「わ、」
俺は、思わず声を上げてしまう。
「な、なんだよ龍。落とすなよ?」
「平気?どうしたの?」
…こんな事を言うのは、彼らにおかしいと思われるかもしれない。でも俺は、あまりの驚きから2人に こう説明する。
「いや…あの、なんかこう…
や、柔らかくて?」
「「は?」」
「違うって!変な意味じゃなくて!こう…なんていうか、くにゃ。って感じで、関節が柔らかいというか」
うぅ。上手く説明できる気がしない。
「なんだそれ。体操でもやってたんじゃねぇの?こいつ」
「歌詞覚えてる最中なんだから、馬鹿言わないで。気が散る」
2人ともまともに取り合ってくれない。だが実際、触れてみたいと分からないだろう。この “ 違和感 ” は。
まるで…眠っている女の子に、無断で触れてしまったかのような、言いようのない罪悪感。
不思議だ…なんだろう。この感覚は…。