第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
【side 十龍之介】
突然目の前に現れた、綺麗な男の人。事務所の廊下の角で、ぶつかってしまったのだ。
あの時は本当に驚いた。
どうして驚いたかって…
物凄く、軽かったから。
少し当たっただけで、簡単に向こうの体が吹っ飛んでしまった。
慌てて掴んだ腕は、信じられないくらい細くて…。男だなんて思えないくらいに。
大の男に、こんな事を思うのは失礼だけど。
なんだか可愛い人だな。と感じた。
それなのに…このあとすぐ、TRIGGERの全権を彼が握るって聞かされて。急に怖くなった。
今までの俺達が、俺達でなくなってしまう気がして。
TRIGGERが、TRIGGERじゃなくなってしまう気がして。
でも、そんな考えは、彼が作った曲を聴いて吹き飛んだ。
彼の作った曲は、紛れもなく…俺達の曲だったから。
「龍?大丈夫か?」
楽の呼びかけに、はっとする。どうやらかなり ぼーっとしていたらしい。
「あ、あぁ。悪い。大丈夫だよ」
「酔った?…あの曲に。気持ちは分かるよ。ボクもまだ、余韻から抜け出せない」
やっぱり、天もか。多分 楽も。
それくらい、あの曲は衝撃的だった。
「…うん。そうだな。かなり、酔ったかも。キツイ泡盛一気に煽った感じ」
「沖縄弁は勘弁しろよ?仕事中は」
「はは、さすがにそこまでは大丈夫」
たしかに俺は酒に酔うと、沖縄の言葉を話してしまうのだが。
それにしても、酒に酔った事は多々あるが。曲にここまで酔わされたのは…初めての経験であった。