第21章 キミがいてくれて、良かった
【side 九条天】
「では結果が出ましたら、こちらから声を掛けさせて貰います。待合室でお待ち下さいね」
「分かりました。よろしくお願いします」
待合室に、アナウンスを流さないという病院の配慮は、素直に有り難かった。
ボクは借りた松葉杖に捕まって立ち上がる。すると、すかさず看護師がドアをスライドしてくれた。
「お気を付けて」
「ありがとうございます」
扉を出て、角を曲がったところにある長椅子を目指して歩く。そこにはプロデューサーが待っているはずだ。
『わざわざ、こんなところまで足を運んで頂いて。申し訳ありません』
角の向こうから、プロデューサーの声が聞こえた。何故だか、ピタリと足が止まってしまった。松葉杖に体重を預けて、彼の話している相手が誰なのかを探る。
「いえ、私が勝手に気になって来てしまっただけなので。お気になさらず」
相手が分かった。おそらくZepp Osakaの支配人だ。
それが分かったとき、違和感を覚えた。
普通、舞台に立っていたアイドルが怪我をしたからと、支配人自らがわざわざ病院までやって来るだろうか?
それもこんな時間に。さらにこんなにも迅速に。
もしかして、彼がここに来た大きな理由は 他にあるのではないだろうか。
「随分とお疲れのようですね。大丈夫ですか?」
『いえ。問題はないです』
「…そうですか。では、少々私の話に付き合ってもらえませんか。こんな時なので、勿論 無理にとは言いませんが」
『はい、構いませんが…』
彼らは そんなやりとりを介した後、椅子に座る気配があった。
支配人がここに来た理由…。さきほど感じた違和感の正体は、きっとこれだ。
彼はここに、プロデューサーと話をする為に来たのだ。
ボクがここで耳にする話が、きっと今後のボクを大きく左右する事になる。
そんな確信めいた予感を胸に、壁に背中を預けて 耳をそばだてた。