第21章 キミがいてくれて、良かった
私は待合室には戻らず、レントゲン室近くに設けられた長椅子で待たせてもらう事にした。
天が検査を受けている部屋から、ちょうど角を一つ曲がった所の壁際に置かれた長椅子。その黒い革張りの椅子に腰を下ろすと、ようやく少しだけ落ち着く事が出来た。
両手で顔を覆って 暗闇を作ると、さっきまでの出来事が思い出される。
『……天』
天の性格上、何があってもアンコールを蹴る事は無いと確信していた。
そして私の見立てだと、彼の怪我は骨までは達していなかった。
その2点が、私が彼をステージに立たせても大丈夫だと、判断した理由だった。
しかし…本当にそれだけだったろうか。
勿論、天の足を最優先で考えた。問題はないだろうと判断したからこそ、ステージに送り出した。そこに嘘は無い。しかし
心の奥の奥では、もっと功利的な考えが働いていたのでは?
私は、もしかすると 天に無理をさせたのではないだろうか。
こんなところで失敗出来ない。無理させてでもTRIGGERの名を売りたい。彼らの失敗は自分の失敗に等しい。何があっても、ファンを裏切りたくない。
…そんな考えは、本当に無かったと言い切れるだろうか。
私を睨み上げてきた、スタッフの顔が 忘れられない。
“ 貴方は、天くんを何だと思ってるんだ!?彼がどうなっても良いのか!?
ステージさえ成功させれば、他は構わないって言うのか!? ”
彼の言った事は…あながち間違いではないのでは?
なんだかもう、私が間違っているのか正しいのか。何が正解で不正解なのか、分からなくなってきた。
「大丈夫ですか?」
『っっ!』
突如、頭上から降ってきた声に 弾かれるように顔を上げる。
声の主は、Zepp Osakaの支配人であった。