第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
男性にしては高い声質。些か力強さのない地声。
そんな物は些細な問題だ と思わせるくらいに、彼の歌唱力は とんでもないものだった。
彼は本当に作曲が専門ではないのか?それなのにこのクオリティ…。にわかには信じられない。
こうなってくると、ますます彼の過去が気になる。社長は一体彼をどこで見つけて来たのだろう。
「…今年のブラホワは、これでいくぞ。
姉鷺には、本番までのスケジュールを レッスン中心で組むように指示しておく。
お前達!絶対にこの曲を完璧に仕上げろ、いいな!」
社長の檄に、ボク達は素直に はい。と答えた。
こんな曲を作られては、他の曲で出場するという選択肢など吹き飛んでしまう。
きっとそれは、楽や龍之介も同じ気持ちなはず。
社長室の扉を閉めると、すぐに楽は口を開いた。
「あいつ…まじで、何者なんだ」
「そんなのボクが知りたい」
「作曲家…にしては、歌唱力が高過ぎる気が…」
3人でいくら首をひねっても、答えが出るはずもない。
「…とりあえず、彼が何者かは分からないけど。
彼は、彼の仕事をした」
3日前、彼は言った。
ボクらをその気にさせるのは、自分の仕事だ と。
「…天の言う通りだぜ。悔しいが、完全にヤル気にさせられた」
「うん。俺は、あの曲で出たいよ。ブラックオアホワイト。絶対にね」
ボク達は、3人廊下で頷き合う。
残された時間は、あと1ヶ月弱。何がどうあっても、歌とダンス。完璧に仕上げてみせる。
それが、ボク達の仕事だ。
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