第20章 出来ますよね。貴方達なら
「このアンコールだけ、俺がセンターをやるか?」
「そうだね、そしたら天の負担は確実に減る」
楽と龍之介の案を、私は一蹴する。
『認めません。
TRIGGERのセンターは絶対に、九条 天です』
天は何も言わずに、私と向かい合った。
息をゆっくりと吸い込んで、覚悟を決めて言葉をかける。
『天。足を怪我したのは、貴方の責任です。
今日のライブ、アンコール無しでは絶対に終われませんよ。
怪我を理由に、クオリティを下げる事もありえません。
いつも通り…いえ、千秋楽に相応しい 今までで一番 最高のステージをお願いします。
出来ますよね。貴方達なら』
しばらく、視線が交錯した後。TRIGGERはステージに向かって歩き出す。
3人の背中が、スポットライトの眩しい中に消えていく。
見失わないように ギリギリまで見つめていた私を、3人は同時に振り返った。
そして、天は笑顔で言葉を紡ぐ。
「当たり前でしょ。ボクは、TRIGGERのセンター。九条 天だよ」
分かっている。私は、信じている。TRIGGERを。楽を。龍之介を。
天を。
「あなたは、天くんを何だと思ってるんだ!?彼がどうなっても良いのか!?ステージさえ成功させれば、他は構わないって!?
なんて人だ…!いや、違う。もはや人ではない。
あなたは、鬼だ」
どうでも良かった。スタッフから飛んでくる誹謗も。私が、彼らからどう思われようとも。死ぬほど嫌われようとも。
「ちょい黙り」
事の成り行きを、一部始終見つめていた支配人。彼が、スタッフの肩を叩く。
「黙っとき。彼の苦しみが理解出来ひんような人間は今、口を開かんといて」
どうでも良い。
「なんで理解出来ひんねん。
どんな想いで、中崎さんが彼らを送り出したんか…。なんで、分かれへんねん」
TRIGGERが、最後までやり切る事以外。
天が、無事にここへ帰って来てくれる事以外。
どうでも、良い。