第20章 出来ますよね。貴方達なら
「天くん!彼の言う事なんて気にしないで!お願いです、考え直してください!」
『姉鷺さん。包帯の追加、ください』
無視して処置を続ける私を、現場スタッフは睨み付けた。
「っ、なんて人だ、あなたはっ!」
「すみません。ボクは、誰に何を言われようがステージに立ちます」
天は、スタッフにそう告げると、今度は私に語りかける。
「どうしてキミが、この会場を選んだか分かったよ。
信じられないくらい、気持ち良いんだ。音が心地よく響いて、楽しいんだ。凄く。もっと歌いたい。早く ステージに立ちたい」
彼の中に息衝く基本思念は、奉仕精神。
常にファンに寄り添い、ファンの望みを叶え、ファンの為に活動をする。
天はいつだって、ファンの為にTRIGGERとしてステージに立っていた。
そんな彼が、今口にしたのは…自分自身の願い。
歌う事が気持ち良くて、楽しくて。もっと歌いたいと言ったのだ。
ファンをここまで大切に出来る彼が、自分自身の為に歌いたいと望めるならば…それはもう、鬼に金棒だ。
彼は、もっともっと上に行ける。
きっとこのステージは、天にとって大きな転機となる。
絶対に…彼をアンコールに立たせるべきだ!
『立ってみてください』
「!…痛くない」
適切な強さ、適切な場所をしっかりとテーピングした。これで少しは動けるだろう。勿論、時間稼ぎに過ぎないが。
「こうなった天は、絶対に折れないからなぁ」
龍之介が呆れたように笑う。
「だな。アンコールには、死んでも出るぜ。こいつ」
楽も同じように笑ってみせた。
「当然」
それに天は、短く答えた。