第20章 出来ますよね。貴方達なら
「大阪といえば…やっぱりタコ焼きか?」
「美味しいよね。俺タコ焼き大好きだな」
「でもボクが聞いた話によると、関西の人は、タコ焼きは熱いうちに食べないと怒るらしいよ」
「え!?それじゃ猫舌の人は可哀想だ」
「おい、どこで聞いた。そんなデマ」
曲の合間のMC。客席からは笑い声が巻き起こる。
次に歌う曲で、ラストだ。
最近発表した新曲で、かなりアップテンポで、三人のソロダンスシーンが目玉の自信作だ。
「ところで…彼らの楽曲は、どなたが手掛けた物なんです?」
『……』
私の斜め後ろに立った支配人から、質問が飛んでくる。また答えにくい事をピンポイントで…。
もしや、彼は何かを勘ぐっているのか?もしそうなら、黙っていては状況は悪くなる。
『八乙女プロお抱えの、ある無名の作曲家がおりまして。その方、メディアへの露出を嫌う方でしてね… “ 匿名で ” というのを条件に、楽曲を提供してくれているのですよ』
「なるほど…だから作詞作曲者が “ H ” となってるんですね」
顎に手を当てて、ふむ。と唸る支配人。
なんだか嫌な予感がますます膨らんでいく。
彼の相手をしている間に、ついに最後の曲に差し掛かる。これを歌い切れば、あとはアンコールに応えて、このライブツアーは終了する。
このまま全力で駆け抜けて、彼ららしい完璧な形で、幕を降ろす事が出来ますよう。
私はセッティングに入るメンバーを見つめ、心の中で呟いた。
『……』
(もう少し。あと少し。頑張れ。そして、全力で楽しんで!)