第3章 今の寝言は、特別に…聞かなかった事にしてあげる
歌の祭典、ブラックオアホワイト用の新曲に、まさかこんな挑発的な曲名を付けてしまうなんて…
やはり彼はずば抜けて普通じゃない。それが良い意味でなのか、悪い意味で なのかは、まだ分からない。
「聞いてみれば全て分かるよ」
「こいつ、このまま寝かしといてやるか」
「…そうだね。疲れてるだろうし」
そう言って龍之介は、自分の上着を彼にかけてやる。
そしてボク達は、そのCDと楽譜を持って社長室へと向かった。
やはり待ち構えていた社長が、短く言った。
「来たか」
本人の姿が見当たらないのが不可解なのだろう。彼は首を傾げた。
「それで?…中崎は?」
まぁ普通は作曲者自らが社長に提出するものだ。その反応は正しいだろう。
「気失ったみたいに寝てる。曲はここにあるんだ。問題ねぇだろ」
「……流せ」
「言われなくても」
楽はしぶしぶ言われた通りにCDをデッキに差し込んだ。
すると、すぐに彼の声が聞こえてくる。
『Black & White take1…』
もうすぐ曲が再生される。その気配を悟って、この場にいる全員が固唾を呑む。
『 』
自分の中で…何かが弾けたような気がした。
彼の、たったワンフレーズ。それを聴いただけで、全身に鳥肌が立った。
まるで心臓を掴まれたみたいに、呼吸すら忘れてしまう。
『—————』
ある程度の時間が経過して、曲調が掴めてくる。
さっきまでは、彼の声と歌唱力に気を取られてしまったが。
本当に大切なのは、この曲の出来なのだ。
『—————』
聞けば聞くほど、この曲の出来栄えが分かってくる。
うん。TRIGGERの色だけでなく、個々のメンバーの特徴までしっかりと研究していただけの事はある。
たった一度聞いただけのこの曲が、もう好きだ。
ボクは、この曲が歌いたい。