第20章 出来ますよね。貴方達なら
「……そうか」
それだけで、大体を察してしまった。
彼には、表舞台に立たない 何かしらの理由があるのだろう。でなければ、これだけの才能を持ち合わせて世に出ていない訳がない。
本人が、渇望しない訳がない。拍手を。喝采を。人々の、笑顔を。
神は、なんと残酷な事をする。
「そうか…」
私は、あまりの悲壮感に つい俯いてしまう。すると彼は、微笑をたたえてこう言った。
『大丈夫です。私がステージに立たなくとも、彼らが…。TRIGGERなら、きっとそれ以上を見せてくれます。それくらい、素晴らしいものを持っているんですよ。
うちの、3人は』
私と中崎は、未だ真剣に話し合っているメンバーを見つめる。
「……それは、営業と捉えるべきですか?」
『…ふふ。どうぞご自由に』
その艶やかな笑いは、どう見ても営業や売り込み向きではない。きっとさきほどの言葉は、彼の心からの言葉なのだろう。
「明日が、楽しみです。
勿論、明日と明後日のライブには私も呼んでもらえるんですよね?」
『特別席をご用意しますよ』
彼は嬉しそうに言うと、私から離れてTRIGGERの元へ向かう。
『では、始めましょうか。今日、残りの時間で掴んで貰います。客席から舞台がどう見えるのか。完璧に把握してもらいます。
当然、E席では躍動感が遠のいてしまう。会場の隅まで届くように動きは細心の注意を払って下さい。
私は貴方達に、どこから観ても100%のパフォーマンスを求めます。会場の観客隅々 もれなく全員に、同じだけの感動を与えられるよう 頑張りましょう』
そこからは少しの間、彼らの練習を見学させて貰っていた。
やはり、世間で認められたアイドルだけの事はある。センスが良い。
この特殊な会場の癖や特徴を、もう掴みつつある。
「………」
ここで、練習風景を楽しむのも勿論良いのだが。なんだか勿体ない気がして来た。
どうせなら、完成した彼らを。完璧なステージを 観たくなってきたのだ。
途中経過を楽しむのも おつだが。やはり完成形を、どーん!と拝みたい。私は待つのが好きな男だ。