第20章 出来ますよね。貴方達なら
「あとは…音の聞こえ方。
S席とE席で、ここまで声や音の違いが表れないのには、特別な理由がある」
九条は、天井を見上げて言った。
「この高い、天井。そして徹底的に音の反響を考慮して作られた、このホール内の設計。
それこそが、どこの席から聴いても 同音に聞こえてる秘密…ですよね?」
くるりとこちらを振り返り、九条は不敵な笑みを浮かべた。
「ご明察です!いや、さすがに良い目と耳をお持ちですね。素晴らしい…。
どうやら貴方達は、本物のようだ」
『うちのアイドルを、そこまで褒めて頂きまして。光栄至極です』
いつの間にか、私達のすぐ隣には彼が立っていた。
「っ!」
すかさず私はその手をとる。
『!?』ビク
「中崎さん!貴方はすぐにでもデビューすべき人材や!私が全面的にバックアップする!勿論、出資も任せてもらうで!資金面はなんも心配いらん。事務所は…やっぱり八乙女さんのところになるんかなぁ。いや、この際 所属なんてどこでもええ!重要なんは、君がすぐに世に出るこ」
『お話は、ありがたいのですが』訛り凄い…
中崎は、すっと私の手を遠ざけた。
『私は、表舞台には 立てな…いや、立たないんです』
「な、なんでや!あんなに歌えんのに…!踊れんのに!」
私と彼が こんなやり取りをしている最中、TRIGGERの面々はステージを見て、さきほどの総括をしていた。
私達の話は、彼らの耳には届いていないだろう。それを確認してから、中崎は言った。
『…ダンスはともかく、歌は…。その、2曲を歌い切るのがギリギリですし、いつ、声が詰まるか、分からないんで。
本当に…』
その瞳は、悲しく伏せられた。