第20章 出来ますよね。貴方達なら
最後の一音、最後のステップまできっちりと見納めてから、私はメンバーに話しかける。
「普通なら…S席とE席とでは、大きな差が生まれてしまう。
そもそもステージとの距離が違い過ぎるからね。でも彼は、限りなく同じに近いパフォーマンスを見せてくれた。
どうして、そんな事が実現出来たのか…分かるかな?」
未だ余韻に浸る彼らを、現実へ呼び戻す。
最初に質問に答えたのは、リーダー。
「まず、ステージの使い方が、上手い。
S席からは問題なく見えている場所も、ここからではどうしてもステージの端が見切れて、アーティストが見えなくなる瞬間がある。
でもあいつは、ここから見える範囲を完璧に把握してる。その上で、ステージをいっぱいいっぱいまで使ってみせた…。きっと、あと一歩でも横にズレていたら、あいつの姿はここからは見えなくなってたはずだ」
私は、彼の説明に大満足して頷いた。
事実、この会場の一番のクセとも言える点は、そこにある。
ステージが少し中に奥まっており、何も考えずにステージを広く使ってしまうと、八乙女の言う通り アーティストが見切れてしまうのだ。
きっと中崎は4ヶ月前、観覧した際 気が付いたのだろう。この会場のクセに。
だからこそ、3日間もここを予約した。丸1日費やしてでも、TRIGGERにこの会場のクセを掴ませる為に。
「それと、計算し尽くされた目線…。多分、どこの席に座ってても、1度は春人くんと目が合ってるはず。
勿論、俺達もライブをやる時は、3階席のお客さんも置いてけぼりにしないように視線には気を配ってるけど…
あの自然で、全体に満遍なく散りばめられた目配せは、もう凄いとしか言いようがない」
十も、八乙女とは違う着眼点で 素晴らしい解説だ。
そして最後に、センターの九条が口を開いた。