第20章 出来ますよね。貴方達なら
私はメンバーを、3階席の一番端へ案内した。そしてやはり、その1つ後ろに私は腰掛ける。
一刻も早くもう1度歌を聴きたくて。動きを目で追いたくて。うずうず待っていると、八乙女がこちらを振り向いた。
「あの…さっきの話なんですけど、詳しく教えて貰えませんか」
「ふふ。意外とせっかちな男ですね、貴方は。ステージを観ていれば分かりますよ。
貴方達が、本物であるなら…ね」
逸る気持ちを抑えられないで、ついつい挑発的な言葉を吐いてしまった。すると、九条が振り向いて笑顔を見せた。
「それは、どういう意味ですか?」
笑ってはいるが、明らかにカチンと来ました。と言わんばかりの表情だ。
と、その時 伴奏が聞こえてくる。
私は途端に、ステージへ全集中を傾ける。
同じように、TRIGGERのメンバーも食い入るようにステージに目を向けた。
「………」
(いい。やはり、とても良い。私の思った通りだ!)
私は、喉をゴクリと鳴らした。もはや、その些細な音ですら大きな雑音に感じられてしまう。
それくらい私は集中していた。
「なんだ、…これ。ここまで、伝わってくる、躍動感!ここ…E席、だよな」
「う、うん…。ステージから、こんなにも離れているのに。ここまで聞こえてきそうだ。呼吸も、鼓動も!」
「彼の…ほとばしるエネルギー。ありえない…どうして、ここまで届くんだ…」
どうやら、3人も気が付いたらしい。
中崎が凄いのは、歌やダンスの技術だけじゃない。むしろ特筆すべきは、その魅せ方を心得ている点だ。
彼のパフォーマンスは、S席で観ても E席から観ても、客が同じくらい満足出来るように配慮されている。