第20章 出来ますよね。貴方達なら
「支配人自ら、案内して下さって ありがとうございます」
流暢に喋る彼は、TRIGGERのセンター 九条 天だ。若いのにしっかりとしている印象を受ける。
「いやいや。
ところで、お願いがあるんですが…今から行うリハーサル、私も見学させて貰ってもいいですかね?」
「勿論です!良ければ、ぜひ感想も聞かせて下さい」
元気な声を返してくれたのは、たしか十 龍之介。テレビで見る印象とは少し違った。画面で見るよりも…なんというか、さっぱりとした男で爽やかな雰囲気。
とにかく、今から彼らがどのような姿を見せてくれるのか 楽しみだ。
新しい音楽に触れる直前の、この期待感は堪らない。
しかし、中崎は彼らをステージには上げなかった。なんと、自分がまずはやって見せるから、それを客席から観察しておくようにと メンバーに話している。
私はその様子を、少し離れたところから見ている。なるほど、これが彼のやり方か。本当に興味深い。
「ここでキミを観てれば良いんだね」
「S席でしかも、どセンターだな。一番良い席だ」
「ステージと客席が凄く近いね」
総席数5000、1階から3階席まであるこの会場。彼らが腰掛けたのは その中でも最も良い席とされる、ステージの真ん前だ。
三人は、そこからステージを見上げる。
音楽を生業としている人間は、この世に数多 存在している。だが その中の、一体どれくらいの人間が これほど真摯に音楽に向き合っているだろうか。
これから自分達が公演を行う会場に直接触れて。さらに直に席に腰掛けて。他の誰でもない自分達の目で、ステージを見る。
実際、ここまでやるアーティストは私自身も あまりお目にかかった事がなかった。その姿勢は、まさにプロフェッショナルとしか言い表しようがない。
嬉しさのあまり 込み上げてくる笑いを、かみ殺す。
たまにこういう人種に出会えてしまうから、支配人はやはり辞められない。