第20章 出来ますよね。貴方達なら
【side Zepp Osaka支配人】
中崎 春人と名乗る男性がここへやって来たのは、4ヶ月ほど前だったろうか。
人気急上昇中の男性アイドルグループ、TRIGGERのプロデューサーをやっているというその男。
なんでも、ツアーライブを行う際の会場探しをしているという。
その男は、裏方へ回っている割には整った顔をしていて。プロデューサーだと聞かされるまでは、彼もステージに立つ側の人間だと、勝手にそう思っていた。
彼がうちへやって来たその日は、海外のジャズアーティストが公演を行う日であった。午前と午後の2回公演。
中崎はS席のチケットを購入し、ステージの一番前で音楽に耳を傾ける。
そして、すぐに会場の仮押さえをしたいと言ってきた。スケジュールを確認し、空いている日を伝えると、連続した2日間を指定したのだった。
その後、彼はE席のチケットを購入して、3階席の一番端の席に腰掛けた。そこで本日2回目のジャズを聴く。
演奏が終わるや否や、急ぎ足でこちらへ向かってきた。そして私に言った。
“ 先ほど仮押さえした日にちの、さらに前日も押さえたい。なので、合計で3日を予約させて欲しい ”
一連のやりとりで、私はすぐに分かった。
彼は、音楽を愛する側の人間だと。
正直言って、この会場はキャパシティも大きくないし 今主流となっているアリーナ型でもない。
だからアイドルがコンサート会場にここを選ぶ事は珍しいのだ。
だが。たまにこのような人間が 思い出したように突然現れるのだから、この仕事は辞められない。
実際、ここのステージにアイドルが立つのは数年ぶりだ。
中崎 春人が支えているアイドルが、一体ここでどんな歌と踊りを披露するのか、興味が湧いた。