第19章 こんなにも好きなのに酷いじゃない?
『八乙女プロに強制連行される前——』
「まーだ根に持ってんのね、あんた」
TRIGGERと出会う前の私には、全力で応援し、支えていたアイドルがいた。
その彼女は、歌が大好きで。
ただ、ひたむきに トップアイドルになるという夢を見ていた。
彼女… “ ミク ” と触れ合ううちに、凍りかけていた私の心は 徐々に溶かされていったのだ。
そんな彼女を、上へ押し上げる為の努力は惜しまなかった。出来る限りの事はやっていたつもりだ。
そして、その努力が身を結ぶのも快感だった。この仕事に、本気でやりがいを感じた。
『 Lio の名を捨てて。仕方なく始めた新しい仕事に、ここまで夢中になれたのは嬉しい誤算でした。
しかし、すぐに ある問題が立ち塞がったんです』
その問題とは…
『それは、性別です』
その単語を聞くなり 姉鷺は、それだけで全てを察してくれたような表情に変わった。
しかし、私は話を続ける。
『忘れもしません。その日は、重要な会議に出席していました。
会議は難航し、深夜にまで及びました。すると、重役が言ったんです。
“ そろそろ終電もなくなる。中崎さんは、もう帰りなさい。
女性なんだから ”
それを言われた時は、色々と思うところはありましたよ。
何故 私だけ?私は必要ないのか?悔しい。腹立たしい。性別がどうしたって。
あぁ、それに… “ どうだ?俺は優しいだろう ” っていう、いかにもな顔を見て 吐きそうにもなりましたね』
姉鷺は、乾いた笑い声を上げた。
「たしかに…男って馬鹿よねぇ。女には、とりあえず優しくしときゃ正解だと思ってんのよ」
私は思わず、乾いた笑いを返すのだった。