第19章 こんなにも好きなのに酷いじゃない?
パリッパリに揚がった皮目。少し歯を入れれば、甘辛いタレと共にジューシーな脂が口いっぱいに広がる。
間違いなく美味しい。間違いなく美味しいのだが…
今じゃない。
『う…』
空っぽの胃に、凶暴な脂がしみる。
「こんなに美味いのに、お前 損してるぞ」
楽は、意外にも器用に骨から肉を噛みちぎる。
「カロリーが気になるけどね。ま、少しなら良いんじゃない?」
天も、せっかくのご当地飯だと言う事で いくつかの手羽先を完食していた。
「うん!ビールと凄く合うしね」
たしかに、お酒大好き龍之介からしてみれば、この味付けは堪らないだろう。
『私の事は、お構いなく』
私は、比較的あっさりとした付き出しを頂く。
もし今、無理をして油物を食べて 胃がびっくりすれば、それこそ明日に影響しかねない。
「情け無いわねぇ。これくらいで根を上げて…。ま、キャパオーバーって事なんじゃないの?
このところのアナタ、働き過ぎよ」
『私のキャパを、貴方が勝手に決めないで下さい』
一瞬、空気がヒリついた中。TRIGGERの面々は、こんな状況は慣れたものだ。という感じで、引き続き手羽先と格闘する。
「嫌ね、そんな怖い顔して睨まないでよ。ちょっと言ってみただけでしょ!
それより、手羽先が無理なら 他に何か食べたい物ないの?」
食べたい物…。
『…ぬるぬるの、うどん』
「何それ、気色わるっ!」
姉鷺は、手に持っていた手羽先を、皿にポトリと落とした。
「姉鷺さん。今プロデューサーが言ったのは、あんかけうどんの事です」
「あ、あらそうなの?何、詳しいわね天」
「以前、彼に作って貰った事があるんですよ。
ぬるぬるの物を作ると言って、完成した物があんかけうどんだったので」
そう言えば、そんな事もあった。あの時は事務所にあった有り合わせの材料で作らざるを得なかったのを覚えている。
「でも、うどんなんかここには無いぞ」
楽は、ご丁寧にもメニューを確認してくれたらしい。
『いえ、いいんです。ちょっと言ってみただけなんで』