第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
*
視界も、光でさえ 遮断された世界。感じるのは、互いの熱と 獣みたいな自分の息遣いだけ。
「っ、…は、」
『んっ、——ぅ』
いい加減、邪魔になった眼鏡を強引に取り去る。今度は抵抗しなかった。
と、いうよりは 出来なかったのだろう。
エリは、必死に俺の背中にしがみ付いていた。それが、可愛くて愛おしくて、さらに俺を加速させてゆく。
片腕で、さらに彼女を強く抱き締め。片腕で、さらにエリの顔を上向かせる。
そして、さらに深くまで口中を貪る。
艶かしい感触の舌が触れ合う度、脳の芯が揺れる。吐息の一つだって逃したくはない。
息苦しさなんて知らない。とにかく、もっとエリを深く味わいたかった。
2人の混じり合った唾液が、つぅ とエリの口元から流れ落ちる。それすらも零したくなくて、舌先で丁寧に舐め取った。
『んっ、…ふ』
こんなに、夢中になるキスは
一体 いつぶりだろうか。
いや…こんなに、夢中になったキスは
今までにない。
『これってファンサ?過激だよね』
「お前…あのキスの後によくそんな事が言えるな」
彼女なりの照れ隠しかもしれないが。俺なりに精一杯の気持ちを込めた口付けに、そんな言われ方をされるのは納得がいかなかった。
「エリは、俺が誰にでも あんなキスをすると思ってるのか」
『そんなの私には分からないよ。だって、私と楽は今日 初めて会ったんだから』
…あれ。なんだ、この感じ。
俺にはたしかに、覚えがある。
やっと心の距離が近付いたかと思うと、さっと引いていく この感覚。
まるで、今 目の前に広がっているこの海の、波のよう。
押しては引いて、寄せては返す。触れられそうで触れられない、さざ波のようで…
そうか、そうだ。これは、まるで半年前の春人 を彷彿とさせる。
『わ!楽!!凄いよ見て!』
はっとする心地で顔を上げると、エリが海の向こうを指差していた。
そこには
「……たしかに これは…凄いな」
『でしょ!?』
大きな虹が出ていた。
俺は今、どこにいるかも知れない人間に想いを馳せる。
——Lio も、今どこかでこの美しい虹を 見ていたら良い。
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