第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
再びベンチに落ち着き、とりあえず拭けるだけ体を拭いていく。
せっかくセットした髪も、服も 何もかも台無しだ。
TRIGGER と印字されたタオルは、物販で余った物だろう。新品のタオルは思ったよりも水を吸ってくれない。
『あ、雨があがった』
そう言って、前へ視線を投げたエリ。同じ方を俺も見る。
彼女が見つめるのは、水平線の彼方。今まさに沈みゆく夕陽を、それに負けないくらい綺麗な瞳で見つめていた。
その瞳が、あまりにも綺麗で。魔法にかけられたように動けなくなったのは、エリには秘密。
空と海が、朱と金に染め上げられていく光景は ぞっとするくらい綺麗だ。だが、今はそれ以上に彼女を見ていたかった。
いま見ておかないと、後悔するとさえ思った。
『ねぇ楽』
「なんだ?」
名前を呼ばれただけなのに、心臓が跳ねた。
——どうしてだ?
『さっき、好きな人がいるって 言っていたでしょう?』
「ああ」
——それは
『私が、その人じゃなくて ごめんね』
——運命が、動く音がしたから。
「っ、」
『でも今は、代わりにしていいよ』
そんな事を言われて、踏み止まれる男が この世にいると思うか?いや いない。断言出来る。
俺は、噛み付くようなキスをした。
お互い全身 冷え切っているはずなのに。唇と、中だけは溶けそうなほどアツイ。
『っ、は…ぁ、が くっ、ひとに、見られ』
唇が離れる隙間隙間に、エリが文字を発する。
俺は隣にあったタオルを引っ掴むと、バサっと俺と彼女の頭の上に広げた。