第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
車を停めた近くに、今は営業していない海の家があった。勿論シャッターは閉まっているし、人だっていない。
しかし、ベンチだけは軒下に放り出されていた。俺達はそこに腰を下ろす。
「あー、すげえ濡れた」
髪から ぽたぽたと雫が垂れ、そのまま輪郭をなぞる。
『水も滴る良い男、だね』
「水が滴ってなくても、俺は良い男だろ。な?」
『あっはは!自分で言わなきゃね』
エリは、上着を被っていたからか 俺ほどは濡れていない。あんなずぶ濡れのジャケットでも、少しでも彼女を守れたなら良かった。
『楽これ、ありがとう。おかげでそんなに濡れなかった。でも…楽はもっと濡れちゃったね』
「いや、これくらい平気だ」
強がってみたものの、さすがに この季節に濡れネズミはかなり辛い。とにかく、タオルでもあれば良いのだが。
『このままじゃ風邪引いちゃうね。車の中にタオルとかある?』
「いや、無かったと思う」
あれは、俺の車ではない。事務所の車を今日の為に借りているに過ぎないのだ。トランクの中には、何も積まれていなかったのを覚えている。
『…あるかもしれないよ?探してみよう?』
何だか分からないが、エリは自信ありげに言った。そんな彼女を見ていると、不思議とタオルは車の中にあるのではないか?と思わされるのだった。
車のトランクを開ける。しかし、やはりそこには何も無かった。
それを確認すると、彼女は後部座席のドアを開けた。そして上半身を中に入れると、出て来た時には…
タオルを持っていた。
『ね?あったでしょ?』
ふふ、と微笑んで、彼女は言った。
まるで、最初からそこにタオルがあったのを知っていたみたいだ。