第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
胸の高さまである波に襲われたというのに、エリは平然と同じ位置に立っている。
すっ転んだのが俺だけという事実が、さらに悔しさを倍増させた。
『足腰、弱いんじゃないの?』
彼女は腰を曲げ、尻餅をついたままの俺に手を差し出す。
「お前こそ、どんな体幹してるんだ」
悔しさを噛み殺しながら、その手をとった。
『ふふ、びしょ濡れ。特に楽』
「お前も大差ないだろ」
『私はほら、ここから上は慣れてないし。セー』
ぽた。ぽた…と、今度は頭上から水が降ってくる。
『フ…。って、…え?』
エリは、まさかの事態に天を仰ぐ。
「……嘘だろ」
嘘ではなかった。突如として、今度は雨が俺達を襲う。
初めは水滴が、様子を見るように落ちてくるだけだったのだが。徐々に勢いを増し、スコールのような雨に変わる。
『っ、あはは!なにこれ!空、超晴れてるのに凄い雨なんだけど!凄いね!』
「笑ってる、場合じゃねえだろ!」
既にびしょ濡れの上着を エリの頭上にバサっと被せ、その腕を引く。そして屋根のある場所を目指して走り出す。
「走れ!もうこれ以上濡れるのはごめんだぜ」
『あはは!ほんと酷い!これも楽の日頃の行いが悪いせいだね!』
走りながら、そんな憎まれ口を叩くエリ。
「あーそうだな。悪かった悪かった」
きっと、彼女の言う通りだ。
好きな女の代わりを、他で間に合わせようとした男には、天罰が下って当たり前かもしれない。
『…ううん。ごめん、本当に日頃の行いが悪いのは、私の 方』
彼女の小さな呟きは、雨の音にかき消された。