第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
というか、今思い出したのだが…
春人の奴、後ろからついて行くとか言いながら 全然ついて来てない。
もしや、途中で俺達を見失ったのか?あいつらしくないな。
『優しいね、楽は。
じゃあ次の質問ね!アイドルやってて楽しい?』
いつの間に質問タイムに突入してしまっていたのか。だが、別に嫌ではない。
最初は、本当に俺のファンなのかどうかも怪しく思えていたのだ。
それに比べたら、これは大きな進歩だ。エリが俺に興味を持ってくれているのかと、純粋に嬉しかった。
「楽しくなかったらやってないだろ。すげー楽しい」
『どんなところが?』
「やっぱり、俺を見て笑顔になるファンが…」
俺が答えている最中、エリは靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、なんと裸足になった。
「さ、寒くないのか」
『裸足で砂浜歩くと気持ち良いよ。それよりほら、続けて続けて』
なんだか大いに気が散るが、俺は質問の回答に戻る。
「笑顔になるファンの顔を見た時。ステージの上で 星空みたいなペンライトを見た時。思うように歌えて踊れた時。
あげてったらきりがない。間違いなく、アイドルは 俺の天職だ」
俺は彼女の細い足首を目で追っている。すると、ザブザブと波の中に足を踏み入れるエリ。
「!おい」
『そっか。いいなぁ』
さすがに寒いだろとか、何やってんだとか、風邪引くぞとか。言いたい事が全部 喉に引っかかって出て来なかった。
夕日を背負って、こちらを向いた彼女が あまりに綺麗だったから。
今にも崩れてしまいそうな 砂の城みたいで、脆そうで、儚くて。
『いいなぁ、楽は…。いいなぁ』
何度もいいな、と言うエリ。
どうして、そんなに悲しげな顔で笑うのか。
彼女が何を背負っているのか、予想も出来なかったが。
俺はたしかに その笑顔の中に、今にも壊れてしまいそうな危うさを見た。