第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
『私だって、怖かったんだから!』
私は、楽の肩辺りに どん。と自分の拳をぶつける。
『楽が飛び出して来たとき、楽が死んじゃうかもって思って、!』
どん。と、また彼の肩を叩く。
一度口から出してしまった言葉は、留まる事を知らない。
『凄く、凄く、怖くて!私のこの気持ちだって、楽には分からないくせに!』
「分かる」
肩を叩いてた腕が、楽に掴まれる。そして、彼は低く唸るように言った。
「もう、分かった」
そこでようやく、私も気付く。
彼に掴まれた腕が、拳が、小さく カタカタ震えているのだ。
『あ、れ…。やだ、何で私震えて…』
目の前で、大切な存在を失いそうになる事が、どれだけの恐怖心を私に植え付けたのか。この震える手を見て、私自身も再認識する。
『は、は…やだ、なんか、恥ずかしいな。ちょっと、待ってね。こんなのは、もう少ししたら 治ま』
最後まで言い切る前に、私は楽の腕の中に閉じ込められた。
掴まれていた腕を引かれて、彼の胸の中に誘われたのだった。
『………』
人が 本当に驚いた時は、声が出ない。
強く強く、ぎゅっと抱き締められているから 息が吸いにくい。
「あんな事があったから、本当なら 早く帰って休めって 言いたいが…。
悪い、俺 まだエリの事 帰したくないと思ってる」
彼の声を、こんなにも近くで聞くのは初めてで。
勝手に耳に血液が集まるのを感じる。
楽の声が、甘く 低く。耳をくすぐる。
『……私、』
こんな事を思うのは、きっとさっき 目の前で彼を失いかけたからだ。
『私もまだ、帰りたく ない』
だからもう少し、無事な彼の姿を眺めていたいだけ。ただ、それだけに過ぎない。
そんな、誰にするでもない言い訳を頭に思い浮かべて。
私は彼の背中に腕を回した。