第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
『ううん、もういいの。大丈夫…。私こそ、殴っちゃってごめんね』
楽の気持ちを思うと、心が痛んだ。まさに自分が、彼にそんな思いをさせてしまっていると考えると、しんみりしてしまう。
そのしんみりが、声調にも現れていたのだろう。楽は気まずそうに頭をかいた。
「…お詫びに、1つ。エリの願いを叶える」
『え?べつにいい』
「即答すんなよ!!驚くだろ!」
『えぇ!?だってそんな事 急に言われても!』
「アイドルが、お前の願いを叶えてやるって言ってるんだぜ!?もっと悩むだろうが普通!」
ファンの心理とは、そういうものなのだろうか。そうか、そう考えれば勿体無いような気がして来た。
『うーん、じゃあ例えば、どんな願いを叶えてくれるの?』
楽は、質問を返されると思っていなかったのか。多少面食らったようだが、すぐに思慮に耽る。
「例えば……そうだな。
コンサートホールで、エリの為だけに歌うとか…。ホテルのスイートルームで、2人きりで食事を楽しむとか」
『あっは。いらない』
「!?」
かと言って、他に欲しい物や 願い事なんてないしな。と考えながら、なんとなく周りの景色をふわりと見渡す。
『…は!!こ、これは!』
まさか!こんな近くに、こんな…、こんな!私が求めていたものが存在していたなんて!!
どうして今まで気が付かったのだろう!
『楽!楽!!私、これが欲しいです!』
テンパりまくって、思わず敬語喋りが再発するぐらいには 気分が高揚した。