第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
やってきたのは駐車場。楽は、当たり前のように助手席のドアを開けた。
『あ、ありがとうございます』
乗り込むと、彼は静かに車を発進させた。
彼が運転している姿は、とても新鮮だ。普段なら、そこに座っているのは自分だから。
「あんた、名前は?」
前に視線をやって、ハンドルを握ったまま彼は聞いた。
『……エリと言います』
少しだけ迷って、本名を告げる。この名前から春人 やLioには繋がる事は、恐らくないだろう。
「じゃあエリ」
楽に本当の名前で呼ばれるのは、なんだか不思議な感覚だ。慣れないから、胸がそわそわした。胸がざわめいたのは、呼ばれ慣れていないからだ。それ以外の理由はない。
……きっと。
「とりあえず、敬語は禁止な」
『え』
「どっかのプロデューサーを思い出すんだよ!その言葉遣い聞いてると。
そう言えば…顔もちょっと似てる、か?」
『了解!敬語は今からスパっとやめる!!』
赤信号だったのもあるが、楽はこちらに顔を近付けて 私の顔をまじまじと確認しようとした。
それを阻止する為、顔の前で腕をクロスする。
「あと、俺を苗字で呼ぶのも禁止」
『…じゃぁ、楽様?』
たしかファンの間では、彼をそう呼ぶ者も少なくないという。TRIGGERの特集記事にそう書いてあった。
「はは。どうして様なんか付けるんだよ。
恋人の事を、そんなふうに呼ぶ奴はいないだろ」
『〜〜〜っ、』
たしかにそうだが!
どうして楽が、恋人という単語を口にするだけで、いちいち妖艶でいやらしく聞こえるのか。
『じゃあ…、楽』
最近、ようやく呼び馴れたその呼称。なんだかまるで 初めて恋人の名前を呼んだように、甘さが口元に残った。