第18章 あれ?俺って…アイドルだよな
『楽』
思った通り、彼は1人で汗を流していた。
「大丈夫か?野暮用とか言ってただろ」
『貴方のお相手が連絡をしてきました』
「は!?」
『30分後、ロビーにいらっしゃいます。私は隠れて後ろから付いていくので、合流したら すぐにデートを開始して貰ってかまいません。では』
私が捲し立てるように行った説明を、彼は目を丸くして聞いていた。私の言葉を必死に理解しようとしている。
そんな彼に背を向ける。出口へ向かうと、彼はようやく声を発した。
「え、ちょ…待て!おい」
勿論、そんな声から逃げるように その場を後にした。自分が滅茶苦茶を言っていると分かっていた。だからこそ追求は避けたかったのだ。
時間に余裕は一切ない。
スーツを脱いで、ワンピースを被る。長過ぎるまつ毛を装着し、真っ赤な紅を引く。そしてショートボブのウィッグを着けて、伊達眼鏡もかけてみた。
久しぶりに履くヒールのついたパンプスの、歩きにくさに驚いた。長らく男装をしている間に、随分と女の子を忘れていたらしい。
最後にベージュの可愛いカーディガンを羽織って完成だ。
出来上がった自分を客観的に見る。
『…よし。完璧』
そこには、春人はいなかった。そして、Lioとも程遠い女の子が立っていた。
ロビーへと向かうエレベーターの中で、慌てていた気持ちが少し落ち着いた。そして、ポツリと独りごちる。
『…あれ…。私、何やってるんだろ』
よくよく考えれば、私が楽とデートする必要があったか?
春人が女だとバレる可能性や、Lioだと気付かれる危険を冒してまで、私が今ここに立っている理由は…?