第17章 光栄の至り
そしてついに、初日。天が出動する日だ。プロ意識の高い彼は、きっと擬似デートを難なくこなしてくれるだろう。新しい試みにも関わらず、もはや安心感しかない。
『こんにちは。ではお約束通り、必要書類を頂戴します。
あと身分証のコピーも撮らせて頂きますね』
受付にやってきたのは、予想した通りの、まだ幼さの残る可愛らしい女の子だった。
私は彼女から、必要な物を受け取った。
素早く書類に不備がないか確認後、首から下げた一眼レフで、提示された保険証をフィルムに収める。
『…はい。これで手続きは全て完了です。では、いってらっしゃいませ』
天 考案のデートコースは、まとめたものを事前に提出してもらっていた。
まずは、タクシーで海へ向かう。
ドアを開けると、潮風と共に海の匂いにつつまれる。
海は、久しぶりだった。キラキラ光る水面も、押し引きを繰り返す波も、なんだか懐かしい。
仕事でなければ、もっとゆっくりと眺めたいものだが…。
「少し、寒いかな。大丈夫?」
海風に当たる女の子を気遣う、優しい声かけ。さすがは天である。その柔らかい表情、頂きます。
私は3回ほどシャッターを切る。
その後、予約してあった大きな船へと乗り込んだ。
そう。彼がチョイスしたのはクルージングだ。まだそういう大人のデートに耐性がないであろう女の子のウケは上々。
船内でのランチも、非常に美味しそうで何よりだ。会話も弾んでいると見える。
そして、食後は2人でデッキへと上がる。
波風に揺れる天を、フレームに収める。
『………』
なんだか、いつもよりも大人っぽい。そんな、あまり普段見る事のない彼の表情。
『綺麗だな…』
カメラ越しに、思わず見惚れてしまったのは、彼には内緒。