第17章 光栄の至り
「クロおうじさまっ!」
『う、』
少女から まさかの名前で呼ばれて、私の顔は引きつってしまう。
「あぁっ、すみません!この子、以前 学園祭の劇で貴方を見て以来、すっかりファンになってしまったみたいで…。
家でもずっと、黒王子 黒王子って言ってるんですよ。今日も、会えるか分からないのに、ここに来るって聞かなくって」
『……』
彼女は、TRIGGERではなく…私に会いに来てくれたのか。
「マレウスっ、あのね、えっと、私ね」
この、キラキラした瞳を向けられるのは…久しぶりだ。もう、永遠に無いと思っていた。
私を求める人など、いないと思っていた。
「黒い王子様ねっ、大好き!」
彼女は今、私を求めているのだ。
他の誰でもない、中崎エリを…。いや、中崎春人を 求めている。
『ちょ、ちょっとここで待っていて下さい!』
私は2人をそこに残して、楽屋へと続く廊下に向かって全速で駆ける。
そして、機材にかけてあった 埃避けの黒い布を引っ掴む。さらに、Re:valeが今日の為に贈ってくれた 祝い花スタンドから一輪の薔薇を抜き取った。
「あ、黒王子 帰ってきたー」
私は、布を全身に纏い、バサっとマントのように広げ。少女の前に片膝をつく。
『お待たせ致しました…。我が愛しのお姫様』
「「っ、」」
『私の為に、姫自ら逢いに来て下さるなど…光栄の至り』
私は、持って来た薔薇を少女に差し出した。
「わぁ…ありがとう…」
少女は、ぽぅっとした顔で薔薇を受け取った。
「あ、あの!良かったら、この子と写真を1枚お願い出来ませんか?」
『はい!喜んで』
少女を抱き上げると、彼女は私にきゅっと抱き付いた。
そして、小さな唇を 頬に落としてくれるのだった。
「…このスケコマシ」
『楽…』
少女は、遠ざかりながらも まだこちらに手を振っている。
「完全に惚れてるな。お前に」
『…アイドルも凄いですけど。
ファンの力も、凄いですね』
「…何を今更。当たり前だろ」
誰かに自分を求めてもらえているのだという、この、温かくてくすぐったい気持ち…。
あの小さなお姫様のおかげで、疲労もネガティブも、あっという間に消し飛んでしまった。