第16章 泣いてなんて、ないよ
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翌日、明朝。
いつもと同じ時間。いつもと同じ仕事部屋で私が待機していると、ノックの音と ほぼ同時に扉が開かれる。
「春人、入るぞ」
『ノックから入室までが限りなく早いですね』
入ってきたのは、TRIGGERの面々だ。
そして、天だけが私の前に歩み出て、何かを言いたげにこちらを見下ろした。
「…………」
『なんですか、怖い顔をして』
黙り込んだ天の背中を、龍之介が軽く押す。
「ほら天、えりりんに言いたい事があるんだろ?」
『ちょっと、私の事をえりりんと呼ぶのはやめて下さい』
「プロデューサー。昨日は…」
天の口が、こんなふうに重くなるのは珍しい。
昨日までの私ならば、もしかして体調が悪いのか?とか、そんなに私と話すのが嫌なのか?
とか。あらぬ方向へ考えを持って行った事だろう。
しかし、今ならば天の気持ちが少し分かる気がした。
彼はきっと、慎重に言葉を選んでいるのだろう。
私の為に、伝える言葉を じっくりと考えてくれているのだろう。
大切な相手に、自分の気持ちを伝えたり、言葉を放つ時は 慎重になるもの。
だって、好きな相手は、絶対に傷付けたくないから。不用意な言葉の刃で、傷付けたくないから。
と、そんなふうに考えてしまうのは、少し自意識過剰かもしれないけれど。
とにかく。
私は、彼らを信じる事にした。
だって、彼らが 好きだから。
もう少しで良いから、心と心の距離を詰めてみたい。
ならば、待っているだけでは駄目だ。
こちらから、歩み寄らなければ。
『昨日は 嫌な別れ方をしてしまったので、私も貴方と話がしたいと思っていました。
キツイ言い方をしてしまい、すみませんでした。
…… 天 』
「いや、謝らないといけないのはボクの方…
って、…キミ、今なんて」